さよならは言わない
尊は友美の言葉に頭を抱え込んでしまった。
そして、言葉にならない唸り声と共に涙を流した。
「俺は絵里を愛しているんだ。忘れることなんか出来なかった」
頭を抱え込みながらそのまま床へと蹲り何度も床を拳で叩いていた。
「絵里を信じることが出来なかった俺が悪かったんだ。俺が何もかも悪かったんだ。あんな絵里にしてしまった俺が一番悪かったんだ!!」
拳で床を叩き、自らの頭も何度も床へと叩きつけた尊は床に蹲ったまま涙を流し続けた。
「どうして絵里に裏切られたと思ったの?」
「絵里が他の男と話してるのを聞いたんだ。同じ学生から告白されていた絵里が貧乏人で格好悪い人は嫌いだからそんな人とは付き合わないって。確かに絵里は言ったんだ。それも、見たこともない程の冷酷な物言いで」
それを聞いた友美の顔色は青く変わっていった。
「なんで、そんな場面に居合わせたのよ!!」
友美はその時のことを後悔した。
あの時の告白を断る理由を考えたのは私ではなく友美だったのだ。
「あれは、私が考えた台詞なの! 絵里がどんなに断ってもストーカーみたいに言い寄られて困っていたから、私がアドバイスしてその通りに演技させたのよ! なんてことなの!」
「ストーカー? 演技?」
「そうよ!絵里は可愛いから男に付きまとわれて困っていたのよ。だから、私が! ああ、余計なことをしなければよかったのね。なんてことなの!」
尊が裏切りにあったと言う気持ちがやっと分かった友美は、自分が愚かな考えを持っていたからと自分を責めた。