さよならは言わない

尊は私のためにしてくれた友美を責めなかった。

よかれと思ってしたことを責められる訳がないと。ストーカー紛いな男から私を守ろうとした友美に感謝こそしても責めを負わせることは出来やしない。


「私が余計なことをしなければよかったのね。ごめんなさい!」

「それでも、俺は絵里の話を聞こうとしなかった。俺に問題があったんだ。これまでの絵里の純粋さを知っていれば疑うなんてしなかったはずだ。俺が絵里を愛するあまり何も見えなくなっていたんだ」


尊も友美も辛そうに頷いているばかりだった。

お互いに自分の責任だと言い合いをしていたが、今はそれより私へ真実を知らせるべきだと話は一致した。



「今日は帰るわ。誤解が解けたのだから絵里を本気で幸せにして欲しいの」

「幸せにするよ。絵里は俺の命なんだ」


尊は友美を玄関まで送ると戸締まりをし寝室へと急いだ。

そして、不安で眠れない私のベッドへと入り込むと今までにないほどの笑顔を私に見せてくれた。


「絵里は俺を愛しているか?」

「え、ええ。愛してるわ」



私は嘘はつかない。例え尊に嫌われていても私はやっぱり尊が好きだから。


「いつから俺を愛してる?」

「初めて会ったときからよ。ずっと尊だけを愛してるわ。信じて欲しいの」

「信じるよ。俺は最高に幸せな男だ。世界で一番幸せな男だよ! 絵里、俺も絵里を愛してる!」



いったい友美とどんな話し合いをしたのか、いきなり抱きしめられ、まるで「愛してる」のバーゲンセールでもあったかのように「愛してる」を言われ続けると気持ち悪くなる。

でも、尊の幸せな顔を見てそれは偽りじゃないと分かった。

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