さよならは言わない

「え? 俺…………何か変なこと言った?」


やっぱり、何も分からずに話している森田さんは思ったより純粋な人ではないかと思ってしまった。

だから、きっと、この人のアパートで一緒にご飯を食べてもお酒を飲んでも家族と居るような感覚で楽しい時間になるのだと思う。


「焼肉が好きなんですか? 私はすき焼き派ですけど?」

「流石にこの季節にすき焼きはないだろう? じゃあ、お好み焼きは?」

「それだと鉄板焼きになるから、結局は焼肉じゃないですか?!」


焼肉と鉄板焼きの違いって何だろう? と、頭を捻っていた森田さんだが、しばらく無言で考えていたけれど、何も思いつかなかったようだ。


「じゃあ、お好み焼きにしよう!」

「いいわよ、それで決まりね」


森田さんの住むアパートと言うのが、実は私のアパートとは正反対の場所だった。

だから、帰宅時間には注意するように頭の中でしっかり時計を働かせていた。


近くのスーパーで買い出しを済ませると森田さんのアパートへと直行した。

部屋へ入ると私のアパートと同じ様な広さで似たような間取りなのだけど、家具や置かれている森田さんの洋服の所為か男性的な雰囲気のある部屋だった。


「男臭い。まるで弟の部屋みたいだわ」

「弟がいるの?」

「ううん。私は一人っ子なのよ」

「じゃあ何で俺が弟?」


森田さんは見るからに私より若く見える。多分、2歳年下なのかと思える程に。

仕事中は年上かと思っていたが、一旦仕事から離れるとあどけない姿を見せられるからか、どうしても可愛い雰囲気がある所為か年下に見えることが多い。


「俺、今年で28になるんだよな。笹岡さんは? って、あ、女性に年齢聞くの失礼だよね?」

「森田さんって私と同じ年齢だったの? 26才くらいって思っていたわ」

「俺って若く見えるからね」


ガッツポーズをして見せる森田さんはやっぱり仕事を離れると可愛い笑顔をしている。

こんな大人の男の人を見たのは初めてかもしれない。

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