さよならは言わない
愛人契約

折角の高給な仕事を自分から棒に振るなんて、例え尊が絡んでいるとしても美香の為にも辛抱しなきゃいけなかったのに。

まだまだ、私は感情のコントロールが上手く出来ない。心療内科の紹介状をもらうはずだわ。


尊の会社の契約を破棄した以上、派遣会社へ迷惑をかけたのだから謝罪の必要がある。

だけど、何と説明すればいいのか。正直に話しても相手にされるはずはないし、過去まで知られてしまう。となると美香の存在まで知られるかも。

知らなくてもいい事まで教えるつもりはない。

もし、今回の事で派遣会社に悪い印象を持たれたら次の仕事を紹介してもらえなくなる。

第一、私がどんなに弁解したとしても派遣先の会社から「能力無し」なんて嫌がらせ受けたらそれでおしまいだ。

ここは、少しでも私の印象を悪くしないように早めに担当の田中さんに連絡する方が良い気がする。


ああ、益々気分が悪くなりそう。


すると、会社の昼休憩の時間に友美から電話がかかってきた。


「絵里、会社を休むなんてそんなに体調が悪いの?」

「ううん、派遣の契約がなくなったの」

「あの男にクビにされたの?!」


事実はどうであれ望んだのは私。

私を心配して来てくれたのを追い返したようなものだから。


「これで良かったのよ。それに、恋人との仲睦まじい姿を見せられるのも嫌だし」

「絵里、もしかしてまだ好きなの?」


お腹の子ども諸とも捨てられたのにそんなはずはないのに。

尊のことは苦い記憶だから、尊が幸せなのが許せないだけよ。恋人に嫉妬しているんじゃない。

< 55 / 152 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop