さよならは言わない
「でも、尊には恋人がいるでしょう?! そんなこと、浮気はダメよ」
「浮気じゃなかったらいいのか?」
「……そんなこと」
尊は昔から女性にモテていた。恋人だった時から私がいても女性達は尊を放っておかなかった。
少しでも油断すれば尊は他の女性達と一緒にカフェで楽しそうにお喋りをしていた。
私がいても女性の取り巻きは絶えることがなかった。
それが辛くて何度も別れたい気持ちにさせられた。それでも、尊は私だけを愛していると囁いてくれた。
だから、私は特別なのだと、尊にとっては特別な女だったのだと思い込んでいた。
そう、思い込みだ。
今も、尊にとって私はその他大勢の女の一人。
昔、付き合った女で一時を楽しもうとしているだけ。
だったら、深い付き合いはしないほうがいい。
「顔を洗いたいの」
「そうか……」
尊は私から離れると下着を穿き服を着てくれた。
私は洗面所で顔を洗うと中々そこから動けずに暫く鏡と睨めっこをしていた。
「やつれた顔をしている」
尊の周りにいる綺麗な女性達とは程遠い、かなりやつれた病人の様な私。
こんな顔をした女と一緒にいても楽しくもなんともないだろうに。何故、尊がここにいるのか私にはきっと永遠に分かることはないだろう。
「気持ち悪…………どうして……」
胸が苦しくて気持ち悪くて吐いてしまいたい気分だ。
尊を愛しすぎて気が狂いそうになるのを押し殺しているからこんなことになるの?
ああ、自分でも自分が何をしたいのか分からない。