さよならは言わない
洗面所からなかなか出てこない私を気にした尊は様子を見に洗面所へと来てくれた。
その時、私は気持ち悪さに座り込み今にも倒れそうになっていた。
「絵里?!!」
真っ青になっている私を抱きかかえ布団へと運んでくれた。
尊に運ばれているところまでは記憶にあったが、その後、意識を失うかのように眠ってしまった。
額から溢れる様に流れ出す汗をタオルで拭いてくれていた尊だがあまりの顔色の悪さに私を抱きしめていた。
「絵里」
眠り始めると少しずつ落ち着いたのか、汗も引き顔色も少しずつ元に戻ると尊は安心したのか私の横に座り込んで顔を手で覆っていた。
しばらく考え込んでいた尊だったが、携帯電話を取り出し知り合いの医師へと電話をかけていた。
「はい、そうなんです。先生に見てもらいたいんです」
私の知らない所で尊は知り合いの医師と診察の約束をしていた。
それから私が目を覚ましたのはお日様が高々と上がりアパートの部屋の中が暑く感じるほどに気温が上昇していた頃だ。
時計を確認すると既に時間は午後1時を過ぎていた。
会社を無断欠勤してしまったと私は慌てて会社へ行く準備をしようとした。
「何している?」
「尊? まだいたの?」
「病人を放っておけないだろう」
気分が悪くなった私を尊は置いて帰れなかったようだ。
本物の恋人ではないのだから置いていけばいいのに。自分だって、仕事が待っているでしょう?
なのに、捨てた女にそんなに優しくしないで。