さよならは言わない

「絵里、会社へは連絡入れている。今日は欠勤だ。それに、これから病院へ行く」

「病院はこの前行ったわ」

「ダメだ。もう診察の予約を入れている。今から行く。直ぐに準備をしろ」


茶の間のテーブルを見ると、今朝までは料理が並び豪華な食卓だったのが、今は何も置かれていなかった。

シンクの中も何も無い所を見ると尊は私が眠っている間に片づけてくれたのだと分かる。

これまで何もしてこなかった坊ちゃんなのに、後片付けまで出来る様になったなんて信じられなかった。


「片づけが出来る様になったのは彼女のお蔭なの?」

「……ああ」

「そう、素敵な恋人なのね。そこまで尊を変えることが出来る女の人に会ってみたいわ」


私は尊とはそんな関係にはならなかった。

きっと、尊は私をその程度しか想っていなかったから。その証拠がこれなんだわ。

なら、もう、放っておいて。

これ以上惨めな想いをしたくないから。


「さあ、行くぞ」

「私は行かないわ。病院へは行く必要ないの」


私は尊とはやっぱり契約でも恋人同士にはなれない。

尊にはあの綺麗な人がお似合いなのよ。それに、尊に愛されている女性だからあんなに輝いているんだわ。


「もう、私の事は構わないで。お願いだから」

「俺をまた裏切るのか?」


裏切る?
尊は何を言っているの?

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