さよならは言わない

尊には逆らえないと分かっている。

仕方なく尊と一緒に私のかかりつけの病院へと向かうことにした。

最近は調子も良く問題ない生活を送れていた。だから、カウンセラーと会う回数も減ってきている。


なのに、諸悪の根源を連れて一緒にカウンセリングを受けに行くなんて、きっとカウンセラーの先生は驚くに違いない。

けれど、尊が一緒に行けば先生も私の対処法をまた考えてくれるかも知れない。

こんな冷酷非情な男に振り回されている私を助けてくれるかも知れない。

病院を訪れた私達はカウンセラーとの面談を行うことになったが、案の定、同行した尊を見てかなり戸惑っている様子だった。


「すいません、まずは彼女と二人だけでお話をさせて下さい」


尊も一緒に面談を受けようとした為、カウンセラーが一旦は尊を面談室から出してくれた。


「彼はどういう人なのか説明できますか?」


男性不信のような状態に陥っていたので、そんな私が男性同伴で面談に来たことが信じられない様子だった。


「彼は、話していた例の人です」

「ヨリを戻したという事? ならば少しは気持ちが楽になった?」

「いいえ。彼と偶然再会して一時的に会っているだけです」

「一時的に? それであなたは辛くないの?」

「辛いです。また、昔を思い出すようで苦しくて美香を失った時を思い出さずにはいられなくて……」


ゆっくり話をしながら私の気持ちを聞いてくれるカウンセラーは、同じ女性という事もあり私は何でも話せていた。

けれど、尊との愛人契約の事はとても話せるものではなかった。

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