さよならは言わない
「少し疲れたのかな? 他の部屋で少し休みましょうか? 顔色があまり良くないみたいだわ。 休んでいる間に彼と少し話をしてもいいかしら?」
「はい……でも、娘の話は、」
「彼は知らないのね、あなたが彼の娘を生んだことを」
「はい、知りません」
「あなたが娘を生んだのは知ってるの?」
「はい」
尊は私が他の男の子を産んだと思っている。だから、尊には教えるつもりはない。
一生、尊には自分には娘がいたことを話すつもりはない。
先生に案内された別室で少し休ませてもらうことになった。
先生と話したことで少し気持ちが楽になった。
自分が尊との関係をどうしたいのか分からないけれど、今の自分の気持ちがハッキリしたからそれだけでも気は楽になった。
例え尊が私を一時的にしか考えていなくても、私は尊を想っている。ずっと、この気持ちは変わらないと分かった。
だから、いずれ別れが来ると分かっていても尊の傍にいる。
「少しお話を聞かせてもらってもいいですか?」
先生は廊下で待っていた尊へ声を掛け面談室へと案内した。
尊は面談室へ入ると私の姿がない事に気付き私の所在を訪ねていた。
「彼女は疲れているようだから少し休ませています。でも、ご心配なく。彼女は大丈夫ですから」
「そうですか。それで、彼女の症状とはどうなのですか? 彼女は何時からここへ通っているのでしょうか?」
「あなたは何も聞かされていないの? 彼女が何時どういう理由でここへ来たのか」
尊は私が病院へ通う理由や経過などを知りたがっていたようで先生にそれについて尋ねていた。