さよならは言わない
「こういう話は本人の口から聞くべきだと思います」
「分かっていますが、彼女が心配なんです。食事があまり取れていないのに仕事に没頭して体を壊すんじゃないかと心配で目が離せないんです」
「そうなの。食事は毎日3食食べているのかしら? 食べる量はどうなの?」
尊はいつも私と一緒に時間を過ごしているのではない。生活も別だから私の様子など答えられるはずがない。
唯一分かっているのは、夕食の時、私が殆ど手つかずで眠ったしまった事と、朝食も食べようとしなかったこと。
昨夜から一緒に居る間のことだけしか分からない。
恋人契約を申し出て私を守ると言った尊だったが結局は私のことは何も分からない。
「もう少し彼女のそばにいて彼女の生活を支えてくれると、彼女の心も落ち着きを取り戻して元の明るい彼女に戻るかも知れないわね」
「彼女を守りたいと思っています」
「そうね。でも、先走りして彼女を傷つけると、もしかしたら彼女は再起不能になるかも。中途半端な気持ちで彼女に近づくと彼女から二度と笑顔は見られないかも知れないわよ」
尊は自分が恋人契約を持ちだしたことを思い出していた。
それはあくまでも派遣契約期間だけの恋人。
中途半端どころか恋人に仕立て上げた後にこっぴどく振る計画をしていた尊は黙り込んでしまった。
守りたいと言う気持ちを持ちながらも自分は裏切られたと思い込んでいた尊は復讐心の塊でもあった。