さよならは言わない
買ったお菓子を手にしスーパーを出るとその通りには子供向けの洋服店があり可愛い女の子の服が私の目に入った。
ショーウインドウには小さな女の子の服が今にも動き出すかのように飾られていた。
躍動感のある服なのにとても愛らしく可愛いらしいブラウスとフリルのスカートだった。
こんな服を着せてやりたかったと思いながら洋服の端に見える値札を確認した。
とてもではないが私の収入で簡単に買える代物ではない。
大きく溜息を吐いたが、だからと、値引きされるわけでもなく買うことも出来ずただ眺めているだけだ。
「お金を貯めてこれを買ってあげたいわ」
私の生きる希望がまた出て来た。
美香にこの服を買ってやりたい。
その為には今回の仕事を完璧に熟し次の仕事へつなげなければならない。
少しでも高給なところで仕事をする為には私に活力が必要だ。
油断すればまた昔の私に戻ってしまう。
尊に捨てられ美香を亡くし絶望を味わい生きる希望を失くしたあの頃に。
あまり長い時間ショーウインドウの前に居座ると不審者と間違えられそう。
新たな希望が生まれたのだからここは早めに退散するのが良さそうだ。
スーパーへの道のりは足取りは重く気持ちも塞がりそうだった。だけど、このショーウインドウの服を見てから私にも希望が生まれ帰宅への道のりはとても楽しい時間となった。
あの服を美香とお揃いで購入し一緒に着て楽しめたらどんなに幸せだろうか?
そんな叶わない夢を見るなんて滑稽だと思いながらも私はその時の事を想像しながら帰宅していった。
そしていよいよ月曜日がやって来た。
私の新しい職場のスタートだ。
いつもの様に黒のスーツを身に纏い長い髪は後頭部で髪留めでまとめて留める。
顔は薄めのお化粧をし品のある仕上がりになるように注意を払った。
「完璧ね」
出勤前に姿見で最終確認をし営業スマイルをした。
「私なら大丈夫」と、まるで暗示をかけるように鏡を見ていた。