さよならは言わない
偽りの幸せ
尊と一緒に病院へ行き別々にカウンセラーと面談した。
本来ならば尊は私の保護者でも夫でも恋人でもない無関係の人物なのだから面談を行うことは出来ない。
けれど、私を心配した尊はどうしてもと面談を受けた。
契約とは言え私の体を心配する尊の姿は偽りではないと思う。
本気で心配してくれているから、残業も認めないし食事の用意もしてくれる。
嘘の様な尊の扱いに偽りの恋人関係を楽しもうと思っている私もいる。
「尊、今日は私に付き合って仕事を休んだんでしょう? 専務なのに無責任なことしてもいいの?」
心配の振りをしていたとしても、自分の仕事を放棄してまで私の傍にいてくれたのは嬉しい。
こんなことは以前の尊にはなかったように思う。
自分の用事を優先させ私は二の次だったように思う。
もう昔の記憶は消し去り忘れようとしていたから、思い出せないかと思っていたけれど少しずつ尊との時間を思い出していた。
「そんなことはお前が心配することじゃない。それより、今日は殆ど何も口にしていないだろう? 絵里の好きなものを食べに行こう。何を食べたい?」
私の好きなものを? 尊ではなくて?
私に合わせてくれると言うの?
「尊が食べたいものはいいの?」
「俺はどうでもいい。今はお前が食べたいものを一緒に食べよう」
そんなセリフを言われるとまるで本気で私を大事に扱っているように感じてしまうよ。