さよならは言わない

何時もの派遣先と同じように戦場へでも行くかの様に勇ましく出掛けた。

会社に到着したら人事部へ一言挨拶を入れた後に営業3課へと向かうつもりで時間に余裕をもって出向いた。

人事部へ行くとそこに居合わせた人達の視線を一気に浴びてしまった。

一体何事か?と心拍数が上がってしまい何時もの私とはかけ離れた緊張で強張った顔をしていた。


「おはようございます、今日からお世話になります派遣社員の笹岡絵里です」

「ああ、笹岡さん、先日は専務が大変失礼しました。専務からくれぐれも謝っておいてくれと頼まれまして。日頃はあそこまで派遣社員については口を挟まないのですが」


人事部の部長自ら前回の挨拶のときの謝罪を受けたが、尊が私を快く思っていないことを改めて思い知ることが出来た。

この私をストーカー扱いするなんて自惚れが強いにも程がある。

私を捨てた人になんかもう未練はないわ。

私は昔の私じゃないの。

強くなるんだから。


もう昔には戻らない!



「営業3課へは私が案内しましょう」

「有難うございます」


人事部のデスクの奥の方に座っていた女性が案内をしてくれる。

その人の後について私は営業3課へと向かっていくのだが、その女性は失礼にも私が専務に契約されずに駄々をこねたと言わんばかりのことを言いだした。


「派遣社員だから派遣先の会社の上役には愛想を取るものでしょう?」


そう言うとクスクスと笑いその人は営業3課の前まで行くと私を残し人事部へと戻って行った。

てっきり営業3課へ一緒に挨拶に行ってくれるものと期待していたが私は人事部の人達には歓迎されない人材なのだと思った。

仕方なく営業部へと入るとまずは一番大きな机のところにいる部長らしき人の元へと歩いていく。

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