失恋シンデレラ
私はドアを閉めて、先生のほうへ向かう。

「ここ座れよ」

先生と二人きり。
つい顔がにやけてしまいそうになるが、緊張の方が勝ってなんとか平然を保つ。

「問題集32ページの問5なんですけど…」

「ああ、これか。これはこの公式を使って…」

ち、近い…

いつもは一番後ろの席で見つめているだけなのに、今は先生の顔がこんな近くにある。

夕陽に照らされて、茶色く透ける先生の髪。
香水をつけているかのように、先生から良い匂いがする。

先生のこの匂いが好きだ。
落ち着くというか、安心するというか。

ずっとそばにいたいと、そばにいれたらと願ってしまう。

「楠木?」

私は我にかえる。
気づくと先生は手を止め、私を見つめていた。

「どうした?ぼーっとして。俺の説明わからなかったか?」

私、先生に見とれて全然説明聞いてなかった…!
せっかく先生が説明してくれてるのに。

「ごめんなさい!ちょっと考え事しちゃって」

私は髪をかきあげ、耳にかける。

「……」

どうしよう?
葉月と美姫がたくさんアドバイスしてくれたのに、緊張で全然実践できない。

「……。楠木ってさ」

先生から突然名前を呼ばれて、ドキッとする。

「はいっ…!」
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