失恋シンデレラ
普段生徒に囲まれているときは、笑いの絶えない優しくて面白い先生だ。
生徒にも人気が高い。

でもひとりになったとき、先生は普段見せないような顔をする。

どこか遠くを見つめるような、寂しい目。
先生の心の奥に秘めた哀しみを垣間見たような気がした。

「そんな顔、してる?」

先生は小さな声で言った。

「今もしてます」

笑っているのに、どこか心の底から笑えていないような気がしていた。
先生の寂しい瞳に私は惹かれ、気づけば目で追いかけていた。

「…楠木はするどいな」

先生は寂しそうに笑う。
やはり気のせいじゃなかったようだ。

「俺がさ、この高校出身だってのは知ってるよな?」

「?…はい」

「俺が高校生のときに、付き合ってた同い年の彼女がいたんだ」

ーーズキン。

少し胸がズキッと傷んだ。

先生、彼女がいたんだ。
こんなに格好良かったら当たり前か。

「初めての彼女で、すごく好きだったんだ。でもその彼女がさ、高2のときに交通事故で死んだんだ」

「え…」

私は頭が真っ白になった。

「俺はショックで、立ち直れなかった。気づけばこの高校の教師にまでなっていた。俺の時間は、高校2年生の、彼女が死んだ日のまま止まっているんだよ」
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