失恋シンデレラ
彼は私をシャンプー台に案内し、雨に濡れた髪を洗う。

その間、私と男の人は何も話さなかったけれど、私の心はさっきまでとは違って、とても穏やかだった。

「本当にいいんだね」

男の人がハサミを持って、私にそう問いかける。

「はい」

「じゃあ切るよ」

ーージャキッ……

ハサミで髪を切る音が、静かな部屋に響く。
床に落ちていく、私の髪。

その髪は私が彼を好きだった証。

バイバイ、私の王子様だったひと。
私はゆっくりと目を閉じた。


ーーーーーー

「どう?軽くなった?」

彼は私の後ろから、鏡を見せながら尋ねる。

「なんか変な感じ」

胸の下まであった髪は、肩ほどまで短くなっていた。

「似合ってるよ」

「ありがとうございます」

長かった髪がなくなると頭も軽く感じて、心も軽くなったようだった。

「雨、あがったみたいだよ」

彼は入り口のドアを開けて、空を指さした。

「あの、シャンプーカットでいくらですか」

私は鞄から財布を取り出す。

「要らないよ」

「え……でも」

「その代わり、また髪伸びたら切りにおいでよ」

男の人は笑う。

「…はい。また来ます」

私は外に出て、後ろを振り返る。
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