ただしいあなたのころしかた
石川くんの指、長いなー。女の人の手みたいにすらっとしてて綺麗なのに、触るとちゃんとごつごつしてて男の人だなって思う。
まあ触ったことありませんけどね。妄想です。あ違う違う、想像です、もとい予想です。何か問題でも?
「……やっぱあたし体に小説彫ろうかなー、石川くん好みの」
「コワ」
「“俺は石川哲! 真面目な高校2年生! なかなか素直になれないけど、同じクラスの明石希のことが大好きなんだゼ!”」
「コワ。あと俺そんな頭悪そうな本読まない」
もちろん主人公は石川くんに決まってる。架空の物語の中でも、あたしの人生の中でも。
ぱらり。またページがめくられたけど、石川くんは今度は顔を上げなかった。
そしてあたし、それ以上何も言わなかったのに、もう一言、「コワ」と付け加えられる。
あたしが一瞬彼に見惚れている間に、本のページはいつのまにか3ページ分めくられていた。読むの速いなー。知的でかっこいい。
同級生の男子に、石川くんみたいな人ってそういない。授業と授業の合間の短い休み時間で読書する男子、そんなのかっこよすぎない?
あたし本になりたい。石川くんの視線を独占できる本。
……ああでも。ダメだ。体に彫っても石川くんが読み終わったらすぐ捨てられてしまうかもしれない。きっとあっという間だ。
「……良いアイディアだと思ったんだけどな」
ぼそりと呟けば、石川くんは徐に本を閉じ、ようやくあたしと目を合わせてくれた。
「せっかく若い体使うなら、もっと有効な方法があるでしょ」
石川くんは頬にかかっていたあたしの髪の毛を自身の手ですくうと耳にかけてくれる。
緩やかに弧を描く石川くんの薄い唇から目が離せなくなって、その色香にくらくらした。