あと5センチで落ちる恋
「……なんだ」
「……いえ」
水瀬課長はとくに気にした様子もなく、無表情だ。
「言いたいことがあるって顔に書いてある」
「…課長、モテるんですね」
「ほっとけ」
そう言った水瀬課長がその場を後にした。遠ざかるその背中からでさえ、モテる男のオーラが出ているような気がした。
扉の開いたエレベーターに乗り込み、1階のボタンを押して壁にもたれる。
ポケットから携帯を取り出してメールを見ると、由紀と越智はもう店に向かっているらしい。
ふっと息を吐き出し顔を上げると、鏡にうつった自分が少しニヤけていた。
さっきの女子社員達の会話を思い出した。
部署のおかげとはいえ、いい男に早々と名前を覚えてもらっているというのは嬉しいものだ。