あと5センチで落ちる恋


「あ、紗羽こっちこっち」

「ごめん、待たせた?」

「いや俺らもさっき来たとこ」


店に着くと、2人はもう席についていた。

私達がいつもつかうここは会社から歩いて5分ほどのところで、料理は美味しくお酒の種類も多い。
少し奥まった通りにあるため会社の人達と遭遇することもほとんどなく、隠れ家的居酒屋だ。

上着を脱いでビールを注文し、改めて乾杯した。


「越智がこんな早く終わるの珍しいね。最近の営業成績はどうなの」

「伸びてはいるんだけどなー。今後どうなるのかなって」

「どういうこと?」


総務課にも噂がまわってくる程度には、営業課での越智は成績優秀だ。
その武器は越智ならではの人当たりの良さと、それなりにイケメンなのにそれが鼻につかない爽やかさ。

そしてなにより優しいのだ。
現にいまも私達を奥側のソファー席に座らせてくれ、自分が見る前にメニュー表を渡してくれている。


「そっちに厳しい男前が来ただろ?その影響をモロに受けてるっていうか」

「ねえ、それって水瀬課長のこと?」

「こっちの重役もだいぶビビってるみたいで色々厳しくなって、規律重視って感じになっちゃってんだよなあ。今まで自由にさせてくれてたからこそ取れた契約も多いから、これから不安でさ」

「…あんまりよく思ってないの?水瀬課長のこと」


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