あと5センチで落ちる恋
その後3時間ほど無駄話に花を咲かせた私達はお店を出た。
「じゃあ次の飲み会までにそれぞれネタ集めとくってことで!」
「つーか相手見つけとくってことで」
3人とも見事に帰る方向が別なので、店の前で解散した。
私は越智の背中が遠ざかったのを見て、自分の帰り道とは違う通りを歩いている由紀を追いかけた。
「待って由紀」
「え?紗羽どうしたの」
「ちょっと確認させて」
そう言うと、由紀は困ったように目を伏せた。
「…私、バレバレ?」
「まさか!もしかしてって思っただけだよ。絶対越智は気付いてないと思う」
少し顔を赤くして俯く由紀は、恋してる女の顔をしていた。
「自分でも今更って思ったんだけどさ、気付いたんだからしょうがないっていうか…」
「越智のこと好きなんだ」
「ちょっと声大きい…!」
まわりには誰もいないのに焦ったように小声になる由紀。素直にかわいいなと思った。
「…誰にも言わないでよね」
「うん言わない。応援するよ」
「えっと…今のままじゃまったく意識されてないことぐらいわかってる。でももう私は友達ってだけじゃ嫌みたい」
由紀は少しだけ悲しそうな顔をした。それさえも、恋愛に消極的な私にはキラキラして見えた。
ちょっとだけ、羨ましいとも思った。
まだ夜は肌寒い。
いつもは気にも留めない星空も、真ん丸じゃない月も、由紀の恋を応援しているような気がした。