あと5センチで落ちる恋
5ヶ月前
5月。
大型連休も終わり、昼間は暑い日が増えてきた。
仕事も順調で、怒鳴られることなくミスすることなく上手くいっている。
社員達と課長との関係も良好で、みんな課長のやり方に慣れてきたのか先月のように怒られることも減ってきた。
ところが平穏というものは、突然打ち破られるのが定石だ。
「………出張、ですか?」
「うん悪いんだけどね、来週の頭に1泊で仙台のこの会社の契約更新取ってきて」
ちっとも悪いと思ってなさそうな顔でそう言ってきたのは、営業課の課長だ。
「ひ、人違いではないですか?どうして総務の私が…」
「本当はうちの課から派遣したいところだけど今回は特別なんだ。その仙台の会社ってのがそっちの水瀬課長が転勤してくる前に担当してたとこで…今回も直々のご指名。君はその助手として付き添い役だから」
「え、水瀬課長とですか?」
開いた口がふさがらない。
入社してから一度も部署移動したことがないので、出張なんて産まれて初めてだ。
それだけでも緊張するのにまさか水瀬課長と2人でだなんて。もし失敗したときにはなんて言われるかわかったものではない。
「もう決まったことだから。詳しいことは水瀬くんに聞いてくれる?じゃあ頼んだよ」
去っていく営業課長の背中を唖然と見送り、フラフラと自分のデスクに向かって力無く座り込んだ。