あと5センチで落ちる恋


「———で、これが一応基本のマニュアル。こっちはクレームの原因と対策をまとめたやつ。あんまり見せたいもんじゃないけどな」

「ありがと越智!助かる」

「びっくりしたよ、いきなり営業の極意を教えろだなんて。初めてだと色々不慣れだろうけど頑張れよ」

「うん」


少しでも不安を解消するために越智に助けを求めたら、役に立ちそうな書類を引っ張りだしてきてくれた。こういうところが優男が優男たる所以だ。

(越智は由紀のこと、どう思ってんのかな)

思わずその顔をじっと見る。
同期としては、2人はすごくお似合いだと思うし上手くいって欲しい。ただ越智に他に好きな人がいるなら話は別だ。


「…なに?」

「あ、ううん!これありがと!じゃあね!」


慌てて営業課をあとにした。
私のせいで由紀の気持ちがバレるなんてことは絶対にあってはいけない。
越智の気持ちがまったくわからない今はなおさらだ。


通路を歩いていると、奥の方の部屋の扉が少し開いているのが見えた。そこは、前に水瀬課長に案内した旧書庫だ。

不思議に思って近付き、開いた扉の隙間から中をのぞきこんだ。




< 18 / 99 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop