あと5センチで落ちる恋
6ヶ月前
4月。
桜が満開を迎え、多くの人が新しい環境の入り口に立たされる季節。
私、中野紗羽(なかのさわ)が務めるシステム会社の総務課にも、新しい風が舞い込んだ。
「今日からここに配属になった水瀬くんだ。彼が今までに素晴らしい業績を収めているのはみんな知っているだろう。お互いに助け合いながら…あーまあ、仲良くするように」
部長がそう言って彼を紹介した。
彼…水瀬さんは、ひとつ頭を下げて前に進み出た。
「本日付でこちらにお世話になります、水瀬徹平(みなせてっぺい)です。この度この総務課に身を置くことになりました。これを機に初心に帰り、今まで以上に尽力する所存ですのでよろしくお願いします」
パラパラと拍手の音が鳴った。
背が高く、どちらかといえば強面な彼の律儀で堅苦しい挨拶に、他の社員が少し緊張しているのがわかった。そしてそれは私もだ。
歳は私より少し上。
これまでの実績を考えて、転勤してきた水瀬さんに用意されたのは課長というイスだった。
私の直属の上司になり、同じフロアで業務をこなすことになる。
…きっと鬼上司になる。
そう考えると、身の引き締まる思いがした。