あと5センチで落ちる恋
「———では今度とも、よろしくお願いします」
「こちらこそ頼むよ。水瀬くんとは永く付き合っていけたらと思ってるからね」
「恐縮です」
取引先との話し合いはとても上手くいった。
付き添い役の私はほとんど口を挟むことなく、課長が動きやすいようまるで秘書のように振る舞った。
無事に契約が完了し応接間を後にしようとしたとき、さっきまで話し合っていた取引先の部長に声をかけられた。
「そちらの…中野さんでしたかな」
「はい」
なにか失礼があったかと内心とても焦りながら振り向くと、なぜかこちらを見てにっこりと微笑んでいた。
「君、水瀬くんとの付き合いは長いのかな?とてもいいコンビでこちらとしてもやりやすかった。水瀬くんのことこれからも支えてやってね」
「あ、ありがとうございます!」
思いもよらない言葉に嬉しくなり、自然と笑ってしまう。隣の課長を見ると、とても複雑そうな顔をしていた。