あと5センチで落ちる恋
取引先の会社を出たときにはもう外は暗くなってきていた。
今日は近くのホテルに1泊して、明日の朝の新幹線で帰る予定だ。
「上出来だ」
「え?」
ホテルまでの地図を確認していると、唐突にそう言われてとっさに隣を見た。
すると、今までにないぐらい優しい顔をした課長がいた。
「やっぱりお前を選んで正解だった」
「あ…ありがとう…ござい…ます」
見たことのない課長の表情に言葉が詰まった。まわりの音が消えて、ふわふわとした気持ちになる。
「今日の飯は俺のおごりだ。なんか食いにいくぞ」
ポンっと肩に手を乗せられ、スタスタと歩き出した課長。
「っ、はい!」
なんともいえない高揚感と充実感がふつふつと沸いてくる。課長が転勤してくるまでは感じたことのなかったものだ。
それは仕事をやりきったことに対する感情なのか、それとも…。
少しの戸惑いを覚えながら、男らしいその背中を追いかけた。