あと5センチで落ちる恋


「乾杯」

「お疲れ様でした」


ホテルのチェックインを済ませた後、フロントで近くの有名なお店を教えてもらった。
旅行客にも人気なそこは、月曜日にもかかわらず賑わっている。

仕事も無事に終えたので2人ともビールを頼んで乾杯した。


「やっぱ仙台に来たら牛タンですよね!お土産も買って帰らないと」

「俺は部長にずんだ餅を頼まれてる」


課長と2人で食事をするのもお酒を飲むのももちろん初めてだ。というか、仕事中以外の課長を見たのが今日初めてだった。

普段が完璧な課長だけに、テーブルに肘をついてリラックスした表情の姿はどこか隙があるようで、男の人なのに妙に色っぽいことに感心してしまった。


「今日は勉強させてもらいました」

「あ?ああ…言っとくが今日の取引なんかかなり難易度低いからな。あれぐらいで喜んでたら甘いぞ」

「う…ですよね」

やっぱり厳しい。


「でも…最後のは、嬉しかったです。いいコンビだって言ってもらえて」

思い出してまた頰がゆるむ。
仕事のレベルが高い課長と釣り合っていると言われたようで、思った以上に舞い上がっているらしい。


「…そうだな。あれはお前とだったからこそもらえた言葉だ。自信持てよ」


(課長も嬉しいって思ってくれたのかな)

これ以上ニヤニヤしないようにビールを飲む。
取引先に褒めてもらえたことよりも、課長にそう言ってもらうほうがよっぽど自信になると思った。


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