あと5センチで落ちる恋
「そういえば…お前、営業の越智と仲いいのか」
「越智蒼介ですか?…まあ、同期ですしね。飲みに行ったりしますし」
「そうか…」
越智がなにかしたのか聞こうとして、前に越智が言っていたことを思い出した。
確か2人は知り合いで、課長が高校生のときからだと言っていた。
「あの…越智とは知り合いだと聞きました」
「ん、ああ聞いてたのか」
「はい。もちろん他の人には言ってません」
そう言うと、課長は一つ溜息をついてジョッキを傾けた。そして近くにいた店員を呼び、同じものを頼んだ。
「いや、それは別にいい。それより……正直、お前にこんなこと言うのもどうかと思うんだが」
「?はあ…」
めずらしく歯切れの悪い言い方だ。
なんとなく姿勢を正して、緊張しながら次の言葉を待つ。
「…俺は昔っから、恋愛ごとには興味がない」
「………はい?」
「愛だの恋だの、付き合う別れるやり直す、どれもこれも面倒だ」
思わず課長を凝視する。
なぜ今そんなことを。
さすがに越智に聞いて知っていますとは言えない。
「そ…れはまた、なんというか、いきなりですね」
「だからあいつにかけてやる言葉がとっさに出てこなかった」
(………越智、あんた一体なにをしたの)
課長は心底困っているといった様子で、空になったジョッキを意味もなく手に持っている。