あと5センチで落ちる恋
「仲いいってことはお前は知ってるのか?越智に好きな奴がいるって」
「!?…ごほっ!」
「大丈夫か」
慌てて課長が席を立って背中を叩いてくれた。
「す、すみませ…!っていうか、えええ!?」
「生ビールお待たせしましたー」
店員に不審そうな目で見られた。
課長は席に戻り、来たばかりのビールに口をつけた。
「悪い、知らなかったのか」
「し、知らなかったです…っていうか、それ私に言っちゃっていいんですか!?」
「知らん」
(越智ごめんね!)
思いがけず知ってしまった越智の恋愛事情に心の中で謝る。
「…相談されたんですか?課長が?」
「いや、違うな。牽制されたんだ」
「牽制…」
「転勤が決まって、そこでやっとお互い同じ会社ってことに気付いたんだ。どこの部署か聞かれて総務って言ったらあいつ、”俺の片想いの相手がいるんで取らないでくれ”って言ってきやがった」
焦る越智の顔が浮かぶようだった。
昔からすごくモテてきた課長を知ってるからこそ、不安になったのだろう。
「”今のところ脈なしなんですけどね”だと。こういうとき普通ならかける言葉の一つや二つあるんだろうけど、どうも俺にはな…」
課長には悪いけれど、多分越智はそんなこと期待してないだろうな、と思った。なにせ、課長が恋愛出来ないタイプなことを知っていたのだ。