あと5センチで落ちる恋
きっとお酒のせいでもあるんだろう。課長とこんなことを話すことになるなんて。
「私も恋愛ごとには、なんというか、消極的でして」
内緒話のように小声でそう告げると、課長は驚いた顔でぱちぱち瞬きをしている。
「今まで、付き合うってめんどくさいなぁとか、いちいち連絡し合うの煩わしいなぁとか思ってきたんですけど」
「お前もかわいそうな奴だったんだな」
「お互い様でしょう。でも、あの2人に幸せになってほしいっていうのはなんか、理屈じゃないっていうか」
自分だったら選ばない道でも、あの2人には幸せなことだと思うから。こんな私がなにかしてあげられるとは思えないのにどうにかして上手くいってほしい。
これは私にとっても大きな進歩だと思う。
「なるほどな。お前にそう言ってもらえたら嬉しいんじゃないか、あの2人も」
「ですかね…」
「でもお前の場合は俺と違って、恋愛出来ないんじゃなくてしないだけだろ。今は消極的でもそのうち変わるかもな」
「え、それ課長ですよね、出来ないんじゃなくてしないだけって」
「違う。俺は出来ないタイプだ。多分これから先もそうだ」
自信たっぷりにそう言い切る課長をじとっと見て、思わず身を乗り出した。