あと5センチで落ちる恋
「…なんですか」
「今日が無理なら近いうちに行かない?俺中野さんともっと仲良くなりたいっていうか」
「どうしてですか?私と影山さんが仲良くなっても仕事するうえであまり関係ないと思うんですけど」
「え、仕事?…じゃなくて、プライベートでさ、」
(ああ、そういう…)
彼の言おうとすることをようやく理解した私は、肩に置かれたままになっていた手を静かに払った。
「すみません、あまり仕事以外で人と関わるのは苦手でして」
「そうなんだ、実は俺も。似た者同士仲良くなろうよ。来週はいつ空いてる?」
「だから……」
「中野」
思わずイラっとして言い返そうとした瞬間、会社の入り口から名前を呼ぶ声がした。
「あ、水瀬課長」
「え?あ、お疲れっす」
立っていたのは水瀬課長だった。
今から帰るところだろうか。というか今の流れを見られていたのかもしれない。
「お前パソコンつけっぱなしだったぞ。すぐに切ってこい」
「え!?すみません、すぐ行きます!…ってことで失礼します」
慌てて影山さんに頭を下げ、さっき出てきたばかりの入り口へと歩き出した。
エントランスに入ると、帰ると思っていた課長がなぜか隣にいて、後ろを振り返ると背中を向けた影山さんが首をかしげながら帰っていく姿が見えた。