あと5センチで落ちる恋
「課長、すみませんでした。すぐに切ってきます」
頭を下げてエレベーターの前に歩き出そうとしたら、なぜか課長は困ったような顔をしていた。
「いや、嘘だ」
「…え」
「余計なお世話だったら悪かったな。困ってるように見えた」
そう言ってスタスタと帰り出す課長を、慌てて呼び止める。
「え、あの、課長?待ってください」
足を止めたものの振り返る気配がない。その背中にむかって声をかけた。
「もしかして、助けてくれた…んですか?」
「…気をつけて帰れよ」
返事をくれることなく背中が遠ざかる。
(ほんと、たまに優しいんだよね…)
エントランスにはちょうど誰もおらず、ぽつんと残された私は思わずふふっと声に出して笑った。
だけど不思議だ。
自分の肩に手を置いてみて考えた。
以前、課長に肩に手を置かれた時は嫌だなんて思わなかった。どうしてさっきは嫌だったんだろうか。
自然と軽い足取りで帰路につく。
今よりもっと課長に認めてもらえるように、明日からも仕事頑張ろう。
そんなことを思った。