あと5センチで落ちる恋
「え?」
「お前にはもっと、違うタイプのやつがいいと思うぞ」
「た、例えばどんな…」
「え?あー、そうだな…」
思わずそう聞くと、まさか聞かれると思っていなかったのか焦ったように考えはじめた課長。そして口元に手を当てながら、真剣な顔で答えてくれた。
「もっと真面目で、仕事に一生懸命で…お前の仕事を理解してくれるような気の大きい奴がいいんじゃないか」
「あはは、それまるで課長じゃないですか!」
「………は?」
「え?……あ」
びっくりした顔の課長と、びっくりした顔の私がお互いの顔を見て固まった。
そして自分の発言を思い返した私は自分の顔がみるみる赤く染まるのを感じた。
”私と課長はお似合いです”と言ったようなものだ。
「や、あの、違うくて…いや、えっと」
「あ、いや、俺のほうこそ悪い、妙なこと言ったな」
「…すいません、失礼します!」
扉を開けてバタバタと旧書庫をあとにした。
自分の発言の恥ずかしさと、逆に謝らせてしまったいたたまれなさと、どうしてあんなことを言ってしまったのかがごちゃ混ぜになってパンクしそうだ。
(私のバカ!あの顔は絶対困ってたよ!)
あのときの課長の顔はまさしく困惑、という言葉がぴったりだった。
”お前にそんなこと言われても困るからやめてくれ”とでも聞こえてきそうな。
当たり前か、と思いつつ、小走りだった足は止まってしまって。
総務課まで戻ってくる頃にはすっかり足取りは重くなってしまい、何故か切ない気持ちが胸に込み上げていた。