あと5センチで落ちる恋
3ヶ月前
7月。
蝉の鳴き声がより暑さを感じさせる中、うちの会社ではクールビズを取り入れているのでノーネクタイの男性社員が増えてきた。
「本日から正式に総務課配属になりました市原直斗です!よろしくお願いします!」
元気な挨拶がフロア中に響き渡った。
4月に入社してきた新卒生達が3ヶ月間の研修期間を終え、正式に各部署への辞令が出された。
そして今日から総務に仲間入りしてきた男の子が、市原直斗くんだ。
部長の横でガチガチになっている様子が初々しい。自分が新人のころを思い出して感慨深くなる。
「水瀬くん、市原くんの教育係だけど…」
部長がそう言うと軽く頷いた課長が、私のほうを見た。
「中野」
「あ、わかりました」
「ということだ。市原、わからないことはとりあえず中野に聞け。それからよく見てスキルを盗め。いいな」
「は、はい!」
(…完全に課長にビビってるよ…)
新人だろうが他の社員と対応の差をつけず厳しい顔の課長は、市原くんからするとものすごく怖く感じるだろう。
実際、部長とより課長と話すほうが緊張しているように見える。
「中野紗羽です。よろしくね、市原くん
」
早く部に馴染んでほしいのでなるべく優しく声をかけると、市原くんが目に見えてホッとするのがわかった。