あと5センチで落ちる恋
「すっかり尊敬されてるーって感じね、市原くんに」
「別に私だけじゃないと思うけど…」
ある日のお昼休憩。
久しぶりに由紀とタイミングが合ったので、2人で会社近くの定食屋さんに来ている。
日替わりランチが500円で食べられるこの店はいつも満席で、入れない日も多い。今日はラッキーだ。
「草食系の真面目な爽やかくんだと思ってたけど…実はそんなことないのかもね?」
「なに、どういう意味?」
「あんたランチ誘われてたでしょ」
まさか由紀に聞かれていたとは思わなかった。さすが噂好きなだけあって、周囲へのアンテナはたいしたものだ。
「あれはただお礼がしたかったみたいで。それより早く一人前になれって断ったけど」
「…まああんたもある意味草食系の真面目な爽やかさんよね」
「え、それ褒めてんの?」
「ああ、もう1人いたか。水瀬課長ね、めっちゃ見てたよねあの時」
由紀は水瀬課長のことを”草食系の真面目な爽やかな人”だと思っているのだろうか。
確かにそういう見方も出来なくはないが、課長と市原くんが同じタイプかと言われればとんでもない、正反対だと言ってもいいくらいだ。
「やっぱり?そんな気はしてたんだけど…」
「公私混同すんな!みたいな難しい顔してたわよー」
「え、嘘。普段あんまりそういうこと言わないのに」