あと5センチで落ちる恋
「やっぱりヘタレなんだって。というか不器用?」
「それ課長のこと?課長はどっちかというと器用になんでもこなすタイプじゃない?」
「…あんたもヘタレ!」
そう言ってじとーっとした視線を送ってくる由紀から思わず目線を外す。
言ってる意味はよくわからないが、なにか気にくわないらしい。
「そ、そういうけど由紀こそどうなのよ最近は。なんか進展あった?」
「あ、逃げたな。…ま、いいけど。相変わらずよ。社内で会ったら話すぐらい」
「連絡とったりはしないの?」
「わざわざ用事もないのに連絡したって絶対変に思われるし…。付き合いが長いだけに今までと違うことしづらいっていうか」
「なるほど」
あれから越智は、課長になにか相談しているのだろうか。なんとなく想像は出来ない。
だけど越智の態度も今までとまったく変わらないなら、お互い同じことで同じように悩んで、踏みとどまっているんだろう。
そしてその一歩を踏み出すように仕向けられるのは、私と課長しかいないのだ。
一つ閃いた私は、テーブルに手をついて身を乗り出した。
「よし、じゃ飲みにいこ!3人で!そうでもないと一緒にゆっくり話す機会も作れないでしょ?」
そう言ってニッコリ笑うと、由紀が不思議そうな顔をして頷いた。