あと5センチで落ちる恋
その日の夜、残業していた私は休憩がてら社内の自動販売機の前に来ていた。
ちょっとしたテーブルとイスがいくつかおいてあるここは、少し休憩するのにはちょうどいい場所だ。
缶コーヒーを買ってイスに腰掛け、プルタブを開けて窓から外を眺めた。
ビルの明かりや街灯、車のライトに彩られ、真っ暗なはずの空間がキラキラと光る様子は、人工的とはいえなかなかキレイだった。
他にだれもいないのをいいことに、脚を組んで深いため息をついた。
市原くんの教育をしつつ、今まで通りの仕事量をこなそうと思うと残業続きになるのは仕方がない。それを嫌だとも思わないけれど、心とは反対に疲労は溜まっていく。
由紀と越智との飲み会の予定もさっそく取り付けたが、ノー残業デーの水曜日にしてもらっていた。
「上手くいくといいなぁ…」
「なにがだ」
「!?」
突然返ってきた声にビックリして、叫び声を上げそうになったのを寸前で堪えた。
「…驚かせたか?悪いな」
そこには笑いをこらえた様子の水瀬課長が立っていた。
「びっ…くりしました。ちょっと課長、人がビビってるの見て笑わないでください!」
「お前ビビりすぎだろ…」
普段の仕事中とは違い、自然体で笑顔の課長。
(課長のこの顔、私好きだな)
そんなことを思って、私も自然に笑顔になる。