あと5センチで落ちる恋
「かんぱーい!」
「お疲れー!」
「あー、ビールが身に染みるう」
迎えた水曜日。
いつもの居酒屋にて3人でジョッキを合わせる。とりあえず由紀と越智を隣に座らせることには成功したので、上々の滑り出しだと言えるだろう。
「最近紗羽が忙しそうだから来れるか心配してたのよー」
「新人の教育してんだって?よくやるよな」
「まあ自分のためにもなるしね!ていうか私抜きでも2人でご飯とか全然行ってくれていいのにー」
とか言ってみる。
由紀が盛大に睨んでくる。
「あーなんか3人セットって感じが染み付いてるよなあ。次からは2人でも飯いくかあ」
(越智ナイス!よく言った!)
「え、あ、そうね行こう行こう」
(由紀嬉しそう…でも挙動不審!)
心の中で2人のやり取りについついツッコみつつ、あくまでも自然に振る舞うことを心がける。
「私もしばらく忙しいと思うしね!あ、揚げ出し豆腐頼んでいい?」
「どうぞ。俺は今ちょっと落ち着いてるかな。4月か10月に契約更新する会社がほとんどだし…外まわりもこの時期じゃなあ」
「暑くてだらけるわよねー。私も紗羽に比べたら余裕ある時期かも」
いつも通り会話の中心はどうしても仕事のことばかりになってしまう。でも今日は、そういうわけにはいかない。
目の前の料理に手を付けつつ、まわりの様子も伺う。私達の隣のテーブルには誰もいない。誰かに聞かれる心配もないだろう。