あと5センチで落ちる恋


「すいませーん、生3つ追加で」

「今日みんなペースはやくない?」

「夏のビールは格別だからね!」


ここで勝負をかける。


「せっかく夏だし海でも行きたいよね」

「紗羽、あんたは誰と行くのよ」

「別に彼氏と行かなきゃいけない決まりなんてないでしょ!由紀と越智だって相手いないくせに」

「うわ、紗羽にそんなこと言われるとは」


心外だ、というように大袈裟に仰け反ってみせる越智。失礼だ。
由紀からの痛いほどの視線はもうこの際気にしないことにした。


「越智もしばらく彼女いないよね」

「そうなんだよ、偉そうなこと言えないなー。今年も寂しい夏かあ」

「実際さ、どんな子がタイプなの?越智って」


そう言った瞬間、ポーカーフェイスを保っていた越智の顔が一瞬だけ強張ったように見えた。

越智は私が越智の気持ちを知ってることを知らない。もちろん由紀も、私が越智の好きな人を知ってるだなんて思っていない。
たまたま偶然、話の流れでこの質問をしたにすぎないのだ。


「…タイプかあ。あんまり考えたことないかも。あえていうなら好きになった人がタイプっつーか…」

「なにそれわかりにくい。じゃあどういう人を好きになるわけ?」


あと一歩。
絶対あとで由紀に文句言われるだろうな、と思って怖くて目を合わせられない。


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