あと5センチで落ちる恋


こっそりポケットに手を入れて、あとは送信ボタンを押すだけの状態にしてあるメールを送った。


「ちょっと紗羽…」

「あー…、そうだな」

そのとき、越智がちらっと由紀のほうを見た。
ちょうど越智への質問をやめさせようとしていた由紀は私のほうを見ていたので、そのことに気付かない。

越智の表情になにかの決意を読み取った私は、ざっと店内を見渡す。


「…楽しそうだな」

そして声をかけられた。


「か、課長!?」

そこに立っていたのは水瀬課長だった。

「え、水瀬さ…課長?」

「お、お疲れ様です」

越智と由紀はこの偶然に驚きを隠せないようで、口をあんぐりと開けている。


「ちょうどいい。中野に用がある。おい、こいつ借りてもいいか」

「え、私なにかミスしてましたか」

オロオロしながら越智と由紀を見ると、2人とも慌てて首を縦に振っていた。

「どうぞ、ぐだぐだ飲んでただけなんで連れていってもらって大丈夫です」

「紗羽、あんたなんかしたの?書類のミスでもした?」


わからない、と表情で返事をして席を立った。当然もうここに帰ってくるつもりもないので、カバンも忘れずに。


「ごめん、また今度3人でも飲みに行こうね!誘ってね!」


2人に手を振って課長と一緒に店をあとにした。
最後に見た2人の驚いた顔が、幸せなものになることを祈って。




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