あと5センチで落ちる恋
「っはあー…緊張した…」
店を出て、どこに行くわけでもなく立ち尽くす。
「お前は本気で嘘が下手だな。なにが”か、課長!?”だ」
「課長こそ!”こいつ借りてもいいか”はちょっとキザじゃないですか?」
「…ほっとけ」
少し照れてる課長を見て、ついふふっと笑いが溢れた。
「…でも、カッコよかったです。無理言ってすいませんでした。協力してもらったおかげで、多分あの2人上手くいきますよ」
ありがとうございます。
そう言って改めて頭を下げた。
「…別に俺が連れ出さなくても1人で先に帰ったらよかったんじゃないのか」
「そしたらきっとあの2人、お開きにしようって言って帰っちゃいます。それに、あのいい雰囲気を作り出して、その中で抜けたかったので。…それには秘密を知ってる課長の協力が必要でした」
あの日、自動販売機の前で打ち明けたこの作戦への協力のお願いを、課長は面倒くさそうに了承してくれた。
上司にこんなことを言うのもどうかと思ったが、他に手が思いつかなかったのだから仕方がない。
「では約束通り、なんでも言うこと聞きますので!」
ピシッと背筋を伸ばして課長の顔を見上げると、困ったように頭をかいて眉間にしわを寄せていた。
「じゃあついでだ。一杯付き合え」