あと5センチで落ちる恋
水瀬課長に連れられてやってきたのはオシャレな雰囲気のバーだった。
中に入ると、流れているのはジャズのような音楽。カウンター10席とテーブル席が3つ、ほんのりオレンジ色の照明と、キレイに並べられてキラキラと光を反射するボトルの数々。
2人並んでカウンターに腰掛け、課長オススメのフルーツビールを頼んだ。
「…よく来られるんですか?」
「週末はだいたいここで飲んでから帰るな。会社からも家からもちょうどいい距離にある」
仕事帰りに1人ここでゆったりとグラスを傾ける課長の姿を想像すると、なんだかとてもカッコいいような気がした。
「お待たせしました」
マスターによって目の前に置かれたグラスからは、フルーツのいい香りがした。
カチンとグラスを合わせて乾杯をして一口飲む。
「おいしい!」
思わずそう言って隣を見た。
「だろ?」
笑顔が返ってくる。
さっきの居酒屋ではお酒を楽しむどころではなかったので、なおさらおいしく感じるのかもしれない。
「今頃どんな会話してるんでしょうか…」
「心配か」
「いえ、絶対上手くいってると思います!越智が覚悟決めてビシッといってくれてるはず!」
あとは由紀が素直になってくれれば完璧だ。明日会ったときに一体どんな顔をしているか、想像して心がほっこりした。