あと5センチで落ちる恋


水瀬課長に連れられてやってきたのはオシャレな雰囲気のバーだった。

中に入ると、流れているのはジャズのような音楽。カウンター10席とテーブル席が3つ、ほんのりオレンジ色の照明と、キレイに並べられてキラキラと光を反射するボトルの数々。

2人並んでカウンターに腰掛け、課長オススメのフルーツビールを頼んだ。


「…よく来られるんですか?」

「週末はだいたいここで飲んでから帰るな。会社からも家からもちょうどいい距離にある」


仕事帰りに1人ここでゆったりとグラスを傾ける課長の姿を想像すると、なんだかとてもカッコいいような気がした。


「お待たせしました」

マスターによって目の前に置かれたグラスからは、フルーツのいい香りがした。
カチンとグラスを合わせて乾杯をして一口飲む。


「おいしい!」

思わずそう言って隣を見た。

「だろ?」

笑顔が返ってくる。

さっきの居酒屋ではお酒を楽しむどころではなかったので、なおさらおいしく感じるのかもしれない。


「今頃どんな会話してるんでしょうか…」

「心配か」

「いえ、絶対上手くいってると思います!越智が覚悟決めてビシッといってくれてるはず!」


あとは由紀が素直になってくれれば完璧だ。明日会ったときに一体どんな顔をしているか、想像して心がほっこりした。



< 53 / 99 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop