あと5センチで落ちる恋
「恋愛が出来ないとかいってるくせに、羨ましくなったり、こんな風に思ったりする自分が本当に嫌になります」
もしかしたら、以前の私はこうは思わなかったかもしれない。恋してる由紀のそばにいて、確かにそれに影響を受けた。
それは私にとって良いことなのか悪いことなのか、上手く自分の中で整理がつかないでいるのだ。
「…俺が偉そうに言えることでもないけどな」
それまで静かに話を聞きながら頭を撫でていてくれた課長が、ゆっくりと口を開いた。
「お前がいなかったら、あいつらは上手くいかなかったかもな。長い付き合いだからこそ勢いも出ないだろ」
会社での声とは違う、安心させるような声色だ。
「一生感謝するだろうな、お前に。お前がいたから、お前だったからだ。下の名前で呼び合うのも、泣き合うのも、お前がいなかったらあの2人は出来なかったんだ。わかるか」
「課長……」
「そんなしけた顔してんな。おら」
「いたっ!」
最後にバシッと背中を叩かれた。
さっきまで頭を優しく撫でてくれていたなんて嘘みたいだ。これが飴と鞭というやつだろうか。
「なんていうか…私、水瀬課長の部下でよかったです」
「お前もたいがい物好きだな。ほら飲め」
再びグラスにビールを注がれたので、課長の優しさを自分の中に刻みつけるようにぐいっと飲み込んだ。