あと5センチで落ちる恋
旧書庫がなくなると聞いたとき、どうしてか少し残念に思った。
確かに、すべての資料を今使われているほうの書庫に移してしまえばただの空き部屋になってしまうし、数がかつかつになっている会議室を増やすというのはとても有難いし、合理的だ。
実際、この案が浮上したときにすべての部署が即座に賛成、あっという間に決定してしまった。
だけどあの場所は、課長が好きな場所だ。
それに私も、あそこでよく課長と話をした。はじめてちゃんと話したのも、あの場所の案内をしたときだった。
たったそれだけの理由でも、残念だと思うには充分だった。
課長は、どう思っているのだろうか。
「市原くん、リフォームのデザイン案まとまってる?」
「はい、いくつか考えてはみたんですけど…」
「ちょっとお互いの案まとめてみよっか」
予算も決まり、本格的にリフォームに向けて始動し、目が回るように忙しくなってきた。
「コンセントはこの辺にもいると思う。あと会議室にしては部屋自体が広めだから、2つに仕切れるようにしてもいいかと思って」
「…なるほど」
「これいいね、ドアに予約の時間が表示されるの。他の会議室でも検討したいかも」
夢中になって2人のデザイン案を見ていると、市原くんが私の顔を見ていることに気付いた。