あと5センチで落ちる恋


「…で、その古い書庫はどこにある」

「あ、いえ、私が取ってきますので座っててください」


課長が立ち上がったのを見て慌ててそう告げた。しかし課長はそれをきっぱりと断った。


「…俺は自分の仕事まで部下に押し付けるようなことはしない。書庫の場所も知らないような課長になる気もない」

「…」


この3日間でわかったこと。

水瀬課長はとても厳しいけれど、とても正しい人だ。自分に厳しくしているからこそ、他人にも厳しく出来る。
いくら怒鳴りつけても文句を言わせないだけのことをしているから、みんなが付いていくのだろう。


「…では、案内します」

「悪いな」


2人で総務課を出て、1つ上の階にある旧書庫へと向かう。


(……気まずい)


とは思うものの話しかける勇気もない。
私の少し後ろを歩く水瀬課長は、今どんな表情をしているのだろう。



「ここです」


旧書庫に着き、ドアを開ける。
今ではほとんど使われていないそこには、当然のように誰もいなかった。


「…埃っぽいな」

「すみません、もう長いことほったらかしなもので」



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