あと5センチで落ちる恋
「…なに?」
「あ、すいません!ただ、中野さんって本当にすごいなと思って…」
感心したようにそう零す市原くん。
本気でそう思ってくれているのが伝わるので、素直に嬉しい。
「上には上がいるけどね。市原くんも、この1ヶ月でかなり成長したんじゃない?ミスも減ってきたし」
「…でも今回は、ちょっとでしゃばりすぎたかと思ってます…」
「まあ確かにこの件を担当するのは無謀だと思ったけど」
「で、ですよね」
途端にしゅんとなる姿を見て、思わずふっと笑ってしまう。素直なところも、市原くんの長所だ。
「自信がなくたって思いっきり出来るように、私がサポートしてるんだから。新人だからって控えめな提案はいらない。自分しか思い付かないような案を出してよね」
そう言うと、しゅんと落ち込んだ目がみるみる輝きを取り戻す。わかりやすい性格だ。
そうやってどんどん自信を付けていってもらいたい。そしたら教育したこっちも、自分の自信につながる。
旧書庫への寂しい気持ちはあるものの、
新しいことへの取り組みは楽しみも多い。精一杯やってやろうと思った。