あと5センチで落ちる恋
「市原くん」
「中野さん…俺、どうしましょう…」
「リフォームの件は私1人で対応しておくから、しっかり処理しなさい。…自分で希望して担当になったのに、今日の打ち合わせに参加出来ないのは残念だと思うけど。仕方ないね」
今にも泣き出しそうな顔の市原くん。
きっと、すごく悔しいだろう。
「今日1日はずっとその対応に追われると思うけど…明日、打ち合わせの結果報告するから。今は目の前のやるべきことをちゃんとする。いい?」
「…すみません、中野さんにも迷惑をかけて…」
「もう、謝罪は明日きっちりもらうから!早くしないと今よりひどい状況になるよ?ほら行った行った!」
なるべく明るくそう言うと、最後に深く頭を下げて市原くんが走っていった。
とりあえず営業課へ状況の確認に行ったのだろう。
ふうっと大きなため息が出た。
今日の打ち合わせ、市原くんの分までしっかり成功させて、いい結果を報告してあげたい。
(…頭もガンガンしてきた気がする)
思わずこめかみに手を当てて目を閉じた。これ以上症状が悪化しないように祈るばかりだ。
完全に自分の世界に入っていた私は、その様子を課長がじっと見ていたことにも気付かなかった。