あと5センチで落ちる恋



「———じゃあモニターはこっちの壁にも設置するほうが良いですね」

「はい、どこに座ってても見にくくないようにしたくて」

「ですね。それと床の材質は…」


打ち合わせは順調に進んだ。
相手の方もこちらの意見をしっかり汲み取ってくれる方で、これは満足のいく仕上がりになりそうだと思った。

だけど打ち合わせが進んで、出来上がりが想像出来るようになっていくにつれて、旧書庫がなくなってしまうんだと改めて実感した。

もうここでばったり水瀬課長に会うこともなくなるのだ。



「では、今日の話し合いをもとに一度、完成図を作ってみますので。後日データをパソコンに送らせてもらいますね」

「ありがとうございます。楽しみにしております」


話し合いに夢中になってしまい、終わるころにはかなりの時間が経っていたようだ。
一緒にエントランスに降り、見送りをした頃にはもう外は暗くなり始めていた。
なんだか空がどんよりしている気もする。

車が見えなくなるまで見送ってから、腕をまわして肩をゴキっと鳴らした。

今から課に戻って、今日の報告書を作らないといけない。市原くんのほうもどうなっているか気掛かりだ。
痛む頭を押さえながらエレベーターへと向かった。


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