あと5センチで落ちる恋
「馬鹿か!こんな雨の中なにやってる!」
「か、ちょ……?」
しっかりと、たしかに課長に抱き締められていた。少し痛いくらいに。
思わず課長の体を押し返して、顔を俯けた。見られたくない。今の私はあまりにも惨めだ。
「か、課長まで雨に濡れちゃってるじゃないですか!私のことはいいですから……」
「お前が心配させるからだろ!」
「ほんと、大丈夫ですから!もうほっといてくださ…」
「無理言うな!お前が気になって仕方ないんだよ!」
「!」
手を添えられて、顔を上げさせられる。
課長の顔は苦しそうに歪められていた。
「…さっきは悪かった。言いすぎた」
さっきと違い、今度はゆっくりと、優しく抱き締められる。
「頼むから、ほっとけなんて言うなよ」
課長の腕の中の温かさに、強張っていた体がほぐされていく。どろどろした感情が涙となって流れていくようで、次々に溢れてしまう。
「…課長……」
すがりつくように、大きな背中に手をまわした。