あと5センチで落ちる恋
1ヶ月前
9月。
まだまだ秋とは呼べない気温が続く中、上半期の決算を控えている。今の社内は嵐の前の静けさ、といった感じだ。
ピカピカの机、足音の響かないマット、そして外を見渡せる大きな窓。
「やっと完成だね」
「はい!こうやって自分が考えたものが実際形になるのって、感動しますね」
約1ヶ月の施工を終え、書庫は会議室へと生まれ変わった。
社員への開放は明日からとなっていて、もう予約も入っている。まだ誰にも使われていないのでピカピカだ。
「無事に終えてホッとしてます。中野さんにたくさん迷惑をかけながらでしたけど…思い切って担当に立候補してよかったです」
「よく頑張ってたよ、市原くん。迷惑なんて全然。私も勉強させてもらった」
市原くんの失敗で少し大変な時期もあったが、その後は頑張って立て直していたし上出来だと思う。
これは実際越智から聞いた話だが、あのときの営業課へのミスの処理も迅速な対応だったという。
「…違うんです。俺ほんとに1人じゃなにも出来なかったです。実は裏で課長がフォローしてくれたりして…」
「え?そうなの?」
初耳だ。
まったくそんな素振りは見られなかったのに。やられた、と思った。