あと5センチで落ちる恋
「大企業の過去のデータはこっちの棚、中小企業のものはその隣です。過去5年分の書類が青いファイル、それより前のものが赤いほうで…一応、ファイルに名前と番号を振ってあります」
「使ってない割には随分探しやすくしてあるな」
「あ、はい。前に私も初めてここに来たとき、目当てのものがなかなか見つからなくて苦労したので」
「……お前が全部やったのか?」
そう聞いてきた水瀬課長は少し驚いているようだった。
「はい。まあ、ほとんど誰も使わないので必要だったかは微妙ですが」
「そうか」
話しながら、目的のデータを探し出して課長に渡した。全部でファイル5冊分にもなるそれをパラパラとめくり、小さく頷いた。
「助かった。俺は少しここを見てから戻る」
「わかりました。では失礼しますね」
扉を開けて出ていく寸前、何気なく振り返って課長のほうを見た。
普段のフロアでは気付かなかったけれど、こうして狭い部屋に2人きりになると課長から爽やかな香水のにおいがした。